株式会社龍角散(本社:東京都千代田区)は、アリババグループの越境ECプラットフォーム・天猫国際(Tモールグローバル、Tmall Global、以下天猫国際)で公式オンラインストアを運営し、その物流をアリババグループの物流関連企業・菜鳥網絡(Cainiao Network、以下、菜鳥)が担当している。越境ECにおける龍角散の成功と、その中で菜鳥が果たしている役割をご紹介しよう。
龍角散は2010年ごろからインバウンド需要の喚起を図り、その結果、中国消費者の間で同社製品の人気が爆発。いわゆる“爆買い”現象が起き、2015年に中国のSNSで日本の「神薬」と話題になった。しかし同時に中国での転売や模倣品に悩まされることになる。これを受けて2017年に卸を通じて中国のECサイトに出品する形で越境Eコマースを開始し、2019年8月には天猫国際に同社の公式ストア(以下、海外旗艦店)を開設した。海外旗艦店では、日本の店頭に並んでいるのと同じ製品を中国の消費者に直接販売している。
この間の経緯を、龍角散代表取締役社長の藤井隆太氏は「医薬品メーカーとしての責任は大きく、転売や模倣品で万が一にも健康被害などが起きれば消費者保護が果たせなくなってしまいます。正規品を販売し、販売先をトレースし、正しい用法などの情報をお客様に提供できることから、天猫国際で海外旗艦店を始めました」と語る。
龍角散の製品はすべて日本国内で製造されている。同社の天猫国際での海外旗艦店の商品に関して、日本の倉庫からの集荷、中国や香港への海上輸送、倉庫の管理、中国購入者への配送と、物流サービス全体を2021年8月から提供しているのが菜鳥だ。
龍角散が菜鳥と連携した理由のひとつはコストメリットだったが、それだけでなく菜鳥の日本チームによる柔軟で迅速な対応が龍角散の越境EC運営に役立っているという。
欠品は困るが、保税倉庫に必要以上の在庫を置いておくことはできない。使用期限、賞味期限までの期間ができるだけ長い製品を購入者に届ける必要があるからだ。龍角散は倉庫業務や販売戦略を考慮して、出荷数量をギリギリのタイミングで決める。そのため、菜鳥の調整により中国の港に到着する期限を延ばせることが、龍角散にとっては大きなメリットだ。特に中国の大規模ECセールである「ダブルイレブン(俗称:独身の日セール)」や「618」のように大量の製品が動く時期には、このタイミングの差は重要な意味を持つ。
ほかにも、臨機応変に到着港を変更する。在庫の上限が比較的柔軟な中国側中心倉庫と上限の厳しい保税倉庫を併用して使い、在庫保管を最適化。提携業者など物流全体を菜鳥が調整する。商品の紛失や破損はこれまで発生しておらず、龍角散から見れば物流の窓口が菜鳥に一元化されることで、効率よく運営できる。
コロナ禍の影響は越境ECにも及んでいる。特に22年春の中国主要大都市のロックダウンの影響で、都市に住む購入者に配送できないことに関しては、企業側ではいかんともし難い。しかし上海の港で荷揚げできなければ他の港に運んでそこから各地に配送するなど、龍角散と菜鳥がスピーディーに連携することで越境ECのビジネスを可能な限り止めずに製品を購入者に届けている。21年11月の「ダブルイレブン」セールも、天猫国際の海外旗艦店を通じて、無事に中国消費者の旺盛なニーズに応えられ、21年通年の売上は前年に比べてよく伸びたそうだ。
龍角散は中国企業と提携して、中国のオフライン小売店でも製品を販売し、多様な販路構築に注力している。これについて藤井氏は「経営的にはリスク分散です。また、正規品を求めるお客様が買い方を選べるように、販売ルートの選択肢を増やしています」と説明する。こうした取り組みの結果、2022年度は中国での売上が同社売上の約20%となる見込みだ。越境EC開始時には中国出身の社員が1人いたが、2022年5月現在では外国籍の社員が6人になったという。
こうした成長の根底にあるのは製品の質の高さだ。藤井氏はこう語る。「日本で売れないものは海外でも売れません。そしてお客様から必要とされるのであれば、国内外を問わず販売します。きわめて細かい粒子のハーブパウダーをのど飴に練り込むなど、製造には高度な技術が必要で、『龍角散でないとダメ』という製品を提供しています。つまり差別的優位性があるのです」。実際、オンラインストアではリピーターの購入が多いそうだ。
同社は現在の場所に本社を構えて以来、関東大震災や空襲など多くの苦難を乗り越えてきたという。創業家出身の藤井社長は「企業は危機を乗り越えて強くなります。歴史から学ぶこと、諦めないことが大切です」と述べる。龍角散が消費者から信頼されるブランドとして成功し、困難を乗り越えていくために、菜鳥と天猫国際はパートナーとして同社を支援していく。