中国におけるフィットネス文化の普及は欧米と比べ後れているが、近年の「中国国家栄養計画(2017~2030)」や「健康中国2030計画」に代表されるように、政府主導でスポーツと栄養改善を通じた健康推進に取り組んでいる。そのような環境下で中国の消費者のスポーツ栄養食品へのニーズは一段と高まっており、CBNDataによると、中国におけるスポーツ栄養食品の市場規模は2030年に60億元(約1,200億円)に達する見込みだ。
現在、中国におけるスポーツ栄養食品市場では、中国メーカーが約80%のシェアを占めており、残りの20%を占める海外輸入ブランドでは、アメリカなどの欧米ブランドが70%以上のシェアを占めている。急成長している市場であることは間違いないが、日本のスポーツ栄養食品メーカーが簡単に成功できる市場とは言い難い。
そのようななか、中国プロテイン市場拡大の商機を的確に捉え、事業拡大を図るべく挑み続けているのが、明治のグローバルニュートリション企画部だ。「一般のスポーツ愛好家が健康のために利用するニーズもあるのではないか」という仮説のもと、昨年10月アリババ傘下の越境ECプラットフォーム「天猫国際(Tmall Global)」に新たに「明治海外旗艦店」をオープンし、プロテインブランド「ザバス」のソイプロテイン100や女性向けのシェイプ&ビューティ、ジュニアプロテインやアスリート向けのPROシリーズなどの豊富なラインナップを中国の消費者向けに提供し始めた
「プロテインブランドの大多数が男性消費者をターゲットにした商品をメインに展開していることもあり、ザバスのソイプロテインは予想以上に中国の女性消費者に受け入れられています」と話すのは、越境EC店舗立ち上げから携わっている明治グローバルニュートリション企画部の中村文香さん。
競争が激しいなか、細分化されたカテゴリー「女性向けプロテイン」からマーケットに切り込んでいくために、同社は女性KOL(キーオピニオンリーダー)の起用を積極的に行っている。「フィットネス分野で人気な女性KOLを起用し、女性ユーザーが多い中国のSNSで定期的に発信してもらっています。ザバス商品をライフスタイルの一部として月1のペースで投稿してもらうことで、認知拡大を図っています。その施策が奏功し、クチコミが広がり、毎月の売上は女性消費者による購入が70%以上を占めています。また、毎月80%以上の売上が新規購入者によるものです」と中村さんは話す。
コロナ禍の巣ごもり生活でも、トレーニングと健康管理にしっかり時間と労力を割きたいという消費者が増えたことも追い風になっているだろう。消費者の節約志向に応じ、明治は天猫(Tmall)が主催する3月女王節などのキャンペーンにも積極的に参加している。同社は今年、6月のミッドイヤーセール「天猫618」にも初参加しており、その結果6月の売上は3月の4倍にも急拡大したという。
同じスポーツ栄養食品を提供しているが、中国の消費者が重視するポイントが他国の消費者と異なることが多々あり、実際に販売するまで感触を掴めないこともある。
「日本と違って、中国の女性消費者はパッケージの可愛らしさを重視していると思います」中村さんは「ザバス」の購買データを見ながら、商品の強みについて分析する。実際、天猫国際(Tmall Global)で商品レビューを開くと、「ピンクのパッケージが可愛い」など、包装を評価するタグが上位に来る。今年4月に新発売した女性向けミルクショコラ風味の「ザバス for Woman ホエイプロテイン100」も、ピンクゴールドを基調色としたパッケージで、多くの男性向けプロテイン商品のなかで、ひと際目を引き、特別な存在感を放っている。爆発的な人気商品となり、発売後まもなく売り切れになった。
中国の消費者が輸入食品を購入する場合、パッケージ以外にも重要視するポイントがある。それは、賞味期限が十分残っているか、包装の破損がなく綺麗な状態で届いているかである。明治の越境EC海外旗艦店の国際物流は、開店当時から全てアリババのスマート物流企業「菜鳥(Cainiao)」に任せている。
「届けるのが早い、コストが安い、その上、何かわからないことがあったら、菜鳥日本チームに相談すれば、すぐ的確な答えが得られる。このサポート体制が大きな安心に繋がっている」とグローバルニュートリション企画部の中村さんは話す。
明治は、次の新商品発売でも菜鳥との連携を予定している。近日発売を検討している商品は、既存品とは価格帯や形状の異なる商品で送料と配達までのリードタイムをいかに削減するか頭を悩ませていたところ、菜鳥日本チームの担当者から「温度管理・送料・スピード」の要件を全て満たすエア便の提案を受けたという。現在、発売に向けて菜鳥の担当者と議論を重ねているところだ。
これからの事業展開について中村さんは、「明治の越境EC海外旗艦店を通して中国の消費者のニーズを掴みながら、ここで得たノウハウを中国本土における明治の事業拡大の足掛かりにしていきたい」と意気込んだ。